小川暮らしの茄子おやじ

おがわさんぽをフォローしてくださっている皆さまこんにちは。おがわさんぽグルメレポーターの長倉正弥と申します。最近時々、このおがわさんぽの記事を読んで下さっている方からお会いした時に感想などを言って頂けるようになりました。ありがとうございます。大変励みになります。これからもよろしくお願いいたします。

 

さて、今回は私の取材レポート第4回として「小川暮らしの茄子おやじ」さんを取り上げさせて頂きたいと思います。

写真:「小川暮らしの茄子おやじ」外観

「下北沢から小川町に伝説のカレー屋が来るらしい」

 

その噂を聞いたのはもう昨年のいつぐらいだったか、しばらく前にさかのぼります。大都会東京都世田谷区下北沢で繁盛しているカレー屋さんが小川町に引っ越してくるとのことで、魅力的な話だとは思いましたが、聞くだけだとあまり現実味を持てず、その後意識にのぼることはあまりありませんでした。

 

一方、昨年は年初ぐらいから小川町の有機野菜食堂「わらしべ」が比較的小さな古民家であった以前の店舗から、巨大な古民家「玉成舎」を改修してそちらに移転するという一大プロジェクトが進行しており、その改修のためのお手伝いワークショップというのが1年間通して10回以上開かれておりました。そこで初めてお会いしたダンディーな男性、阿部孝明さんがその「茄子おやじ」であると知ったのはお会いしてしばらく経ってからのことでした。

写真:店主の茄子おやじこと阿部孝明さん(写真左)

聞けば阿部さんはその「わらしべ」の移転前の店舗を改装し、新たにカレー屋さんの店舗を構えられるというお話でした。年が明け、今年になって1月に玉成舎に移った「わらしべ」がオープンし、2月にはこの記事でも取り上げさせて頂いた「強い女」、「つよいみかた」がオープン、小川町が何やら活気を帯び、騒然としてくる中、徐々にそのカレー屋さん店舗の改装は進み、いよいよ開店が現実味を帯びてきました。

 

そしてついに3月3日に「小川暮らしの茄子おやじ」はオープンしました。移転前の「わらしべ」の店舗も古民家の持ち味を生かした素朴な内装が居心地の良い素敵な空間でしたが、「小川暮らしの茄子おやじ」の店舗はそれと打って変わって漆喰の白壁のカラーを基調としたモダンで清涼感溢れる内装に生まれかわっており、カウンターの側面に貼られた白、青、黄のタイルや斬新な照明器具、置いてある小物や本などの作り出す雰囲気、その美しさ、爽やかさは空間そのものが芸術であると言っても過言ではないほどです。

 

写真:店内の様子1

写真:店内の様子2

気になる味の方はとてもシンプルな、正にカレーと言って思い浮かべるような家庭のカレーの味に近い味付けなのですが、食べた後に口中に広がる後味に素材の味そのものが持つ甘みや旨味が素晴らしい奥行きを与えてくれています。カレーのメニューは、ちきん、やさい、きのこ、びーふの4種類のみ。たった4種類ですが、これらが実はそれぞれ凄く個性的です。それはやはり、素材の味を活かした味付けだからこそなのでしょう。ローテーションすることで毎回新鮮な味わいが感じられるようになっています。

 

不思議なのは2回、3回と繰り返し食べるにつれどんどん味を好きになっていくことです。癖になる感覚があります。この理由が何なのか考えたのですが、最近自分の中で答えが出ました。この記事の最後にお伝えしますね。

 

さて、ご存知の方も多いかと思いますが、阿部さんはカレー激戦区と言われる世田谷区下北沢でも先駆け的な老舗中の老舗カレー繁盛店「茄子おやじ」を店主として27年間経営しておりました。数多くのファンがおり、人気作家の吉本ばななさんも常連さんだったそうです。

 

そんな阿部さんの過去について少しだけお聞きしてみました。経済学部だった大学で学んだ知識は見事に人生の役に立たなかったとのことです。大学を出て1年半ほどサラリーマンをされていたそうですが、向いていないと思ってやめ、その後フリーターとして生計を立てていました。

 

そんな中、高校の時の友人のお兄さんが吉祥寺でやっていた「まめ蔵」というカレー屋さんで働き、様々な面白い人たちと出会う経験をしました。トータルで4年ほど続け、このようなスタイルなら自分にもできそうだと思い、33歳で「茄子おやじ」を下北沢で開店しました。

 

「茄子おやじ」という屋号は、阿部さんがまめ蔵にいるときに茄子が好きでしょっちゅう茄子の総菜などをつまみ食いしていたら、バイトの子がそう呼ぶようになったとのことで、面白いなと思って屋号にしたとのことです。

 

最初にどこでお店をやるか当時住んでいた小田急線の沿線上で探したときに、下北沢がこじんまりとしていて全体を把握しやすいということで気に入ったそうです。時はバブルのころ、メイン通りにお店を出すのは家賃からしてまず不可能なので、少し奥まった小路沿いにある店舗を借りました。始めた当初はお客さんが全然来なくて苦しんだそうです。

 

開店後数か月ほど経ってから、6月頃、電話を取ったバイトの子から「HANAKO」という雑誌の編集部から取材をしたいという申し出があるとのことでした。取材を受けた週の木曜に記事が載った雑誌が出て、金曜日は少し忙しい程度でした。ですが土曜にお客さんが早くからぞくぞくと現れ、気づいたら満席になっていました。それ以来しばらくは嵐のようにお客さんが訪れる毎日となりました。

 

夏が過ぎて少し落ち着きましたが、一度雑誌に取り上げられると取材の連鎖があり、オリーブ、東京ウォーカーと取り上げられていつの間にか有名店となっていったとのことです。それから27年間繁盛店として店舗を続けてこられましたが、還暦を過ぎて小川町に住んでいる両親が気になっていました。兄弟の中で自分以外に面倒を見られない状況だったのです。

 

そんな折、頑張っているスタッフがいたので、2016年12月に「茄子おやじ」のお店を譲り、小川町に引っ越してこられました。不思議な縁で、下北沢でのつながりの中に、「わらしべ」の経営者、山下夫妻と共通の知り合いがおり、小川町に移るという話の中で紹介して頂いたということです。それからとんとん拍子に話が進み、「わらしべ」の旧店舗を借り、お店をオープンする運びとなって今に至ります。

 

そんなわけで今でもやっている下北沢の「茄子おやじ」とはどんなお店なのだろうと思い、実際に行ってみました。到着したところ、何と店の前に行列が出来ています。恐らく27年前からのものと思われる9割方朽ち果てて殆ど読めない看板が、あえてなのでしょうけれどもそのまま使われておりました。路地裏と聞いていましたが、本当に小さな路地に面した店舗で、「茄子おやじ」以外には店舗がほとんどないという極めて地味な通りでした。

 

写真:下北沢の「茄子おやじ」

列の最後に並んだところほどなく開店し、運よくちょうど私で満席になり、カウンターの最後の一席に座ることが出来ました。本当に小さな店舗で、現在の「小川暮らしの茄子おやじ」に比べても更に半分ぐらいしかスペースがなさそうなお店でした。店内は薄暗く、昔ながらの喫茶店を思わせるような雰囲気でした。壁やカウンターの色合いが30年間の歳月を物語っています。

 

そして味はというと…そっくり同じでした。ほんの少しだけどこかに違う感覚がありましたが、言葉に出来ませんでした。阿部さんの創った味をしっかり受け継ぎ、守っているのだな、と思いました。27年間阿部さんが営々と続けられてきたことの積み重ねと、そしてそれを引き継いだ方の日々の努力が、大勢のお客さんを未だに惹きつけ続けているという結果に表れているのだと思います。

 

阿部さんとお話ししていると、飄々とした、くだけた雰囲気の中に常に目の前の相手に気を配り、広く受け止める優しさを感じました。それは27年間の営業経験の中で培われたものなのかもしれませんし、元々の素質が磨かれたものなのかもしれません。

 

下北沢は若者の町、サブカルチャーの聖地と言われるそうです。それは世の中の主流、メインカルチャーとは異なる文化を育む町と言えます。サラリーマン生活に馴染めず、フリーターとして流れ流れた先にたどり着いた下北沢でのカレー屋の経営。そこで阿部さんは数多くの世に馴染みづらい若者たちと出会い、彼らの悩みを、存在を優しく受け止め続けてきたのだろうと思いました。

 

写真:開店祝いの茄子おやじオリジナル鬼瓦

冒頭に述べた癖になるこのカレーの味わいとは何なのか。それは素材そのものから出るマイルドな甘みや旨味、それは正に阿部さん自身のように人を受け入れてくれるような優しさを感じます。その優しさこそが「茄子おやじ」の癖になる味わいの正体ではないかと思いました。皆さまはいかがお考えでしょうか。

小川町で生まれ変わった下北沢の名店のこれからが益々楽しみですね。小川町の名店として今後益々人々の生活にうるおいと安らぎを与えて頂くことを心より願い、結びとさせて頂きます。

【お店情報】
◆営業時間:11:30~15:00ごろ
(カレー売り切れ時の早じまいあり/当面は15時までの昼営業のみの予定)

◆定休日:5月以降は木曜日
(不定休/木曜以外に月1回連休取得/詳細はSNSにて随時告知します!)

◆電話:080-1361-3942

◆所在地:埼玉県比企郡小川町小川110-1
◆アクセス:小川町駅から徒歩5分ほど

 

 

 

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